本課題のテーマである『国語』の版本をめぐる諸問題の中から、今年度はおもに『校刊明道本韋氏解国語札記』(以下、『国語札記』)の成立及び特徴に関わる課題を取り上げた。『国語札記』は『国語』を読む上で、江遠孫の『国語明道本考異』と共にもっとも重要な参考文献とされる。『国語明道本考異』は公序本との異同をほぼ網羅的に示したものである。しかし『国語札記』はそれとは性格が異なり、諸版本及び関連文献による校勘及び先人の校注の引用には、執筆者(顧千里・黄丕烈)の見識が強く反映されており、「読む人が読めばわかる」という書き方になっている。今年度は、『国語札記』に記されている段玉裁の校語を取り上げ、その成立過程を明らかにした。『国語札記』の殺玉裁校語は、大きく二種類に分類される。ひとつは『国語札記』の中心的な作者である顧千里が、自身の校本に写し取った段玉裁校本の書入れを引用したものである。研究代表者はそれを、北京の中国国家図書館に所蔵されている段玉裁の『国語』校本を丹念に調査することにより明らかにした。もうひとつは、顧千里が書いた『国語札記』の草稿に段玉裁自身が手を加えたものである。これは先の調査結果に、段玉裁の年譜、著作、書簡などの検討を加えて導きだした。考察過程及び段玉裁校語の詳細は『人文学報』(No.418)に発表したが、その成果は『国語』の版本研究だけでなく、乾隆嘉慶期における校勘学の研究にも寄与するとこが少なくない。さらに、段玉裁が『国語札記』に手を入れたのは嘉慶四年であり、『説文解字注』の刪定と時期が重なる。今年度の成果は、段宝裁研究及び『国語』研究にも寄与するところがあると考える。
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