研究概要 |
本年度は統語的休止(syntactic pause,以下"/"と示す)と統語的制約の相互作用を実験的に検討した。関係節を含む再解析文を(1),(2)のように2種類,各20文作成した。(1) では当初「決意した」の主語として解釈された「天野が」,(2) では「冷やした」の主語と目的語として解釈された「山田が」と「ミルクを」が主節の要素として再解析されるので,前者を「主語再解析文(SR)」,後者を「主語・目的語再解析文(SOR)」と呼ぶ。再解析が要請されるのは下線で示した関係節主辞名詞位置である。第1文節(P1)と第2文節(P2)の間,または第2文節と第3文節(P3)の間に統語的休止を挿入した合成音声を作成した。SRでは,P1とP2間の休止が解釈を促進し,P2とP3間の休止が解釈を阻害すると予測される。逆にSORでは,P1-P2間の休止が解釈阻害休止,P2-P3間の休止が解釈促進休止である。 (1) a. SR,解釈促進休止:天野が/進学を決意した後輩に資料を渡した。 b. SR,解釈阻害休止:天野が進学を/決意した後輩に資料を渡した。 (2) a. SOR,解釈阻害休止:山田が/ミルクを冷やしたコーヒーに少し入れた。 b. SOR,解釈促進休止:山田がミルクを/冷やしたコーヒーに少し入れた。 (1),(2)の実験文を文単位で聴覚呈示し,再解析の成否を反映する質問文に対する正答率を解析した。実験の結果,休止の効果は処理負荷の高いSORのみに現れ,相対的に処理負荷の小さいSRには現れなかった。また,作動記憶容量の効果は,SRのみに現れ,SORでは有意な水準に達しなか2た。この実験結果は,休止の統語的処理に与える影響が処理負荷によって変化する事,また,作動記憶容量の大小が処理精度とは直結しないことを示している。
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