本研究は、ロシア所蔵ウイグル語仏典断片を整理し、翻訳原典の同定とテキストエディションを行うことを主たる目的とし、ロシア以外の国に保管されている同一あるいは類似の内容をもつウイグル語仏典をも平行して考察することである。今年度ロシア所蔵ウイグル語仏典の同定作業に関しては28ページからなる小冊子(Kr.IV872)に書かれた仏典の転写・翻訳をなした。この仏典の原典は不明であるが、密教部のいくつかの経典の内容を含む。手持ち写真の不明部分をサンクトペテルブルグの東洋文献研究所で確認した。この文献については解説を加えて出版したい。また、その調査過程で敦煌出土漢文に傍注として書かれている不明文字を発見し、帰国後整理してみた。形態上は契丹文字に似ているが、いずれの文字も同定できなかった。引き続き分析を進めたい。昨年度に転写および漢文との同定を終えたスエーデン国立民族学博物館所蔵の『アビダルマ倶舎論』(約2000行)のテキストエディションが予想以上に難解であり、英訳に手間取ったが、ほぼ完成した。後は語彙を整理し解説を施して出版準備を完了する。ベルリン所蔵品についてはウイグル文字で書かれた漢文冊子本(U5335)の解明に努めた。内容は礼讃文、懺悔文さらに「入阿毘達磨論」の頌等を含んでおり、漢語音写形式の約80パーセントは対応漢字に同定できた。漢字音は唐末・五代の西北漢語音の体系をもつ「ウイグル漢字音」であった。
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