1. 本研究は、ロシア所蔵ウイグル語仏典断片を整理し、翻訳原典の同定とテキストエディションを行うことを主たる目的とし、ロシア以外の国に保管されている同一あるいは類似の内容をもつウイグル語仏典をも平行して考察することである。 2. 本年度、最も力を注いだ研究はストックホルムのウイグル文『アビダルマ倶舎論』(約2000行)のテキストエディションを完成させることであった。この写本に関しては、一昨年度にテキストの転写および漢文との同定を終え、昨年度にテキストの英訳を一応終えた、本年度はこの英訳文を完全なものに整え、さらに注釈、序論、語彙を作成した。これで単行本として出版する準備が調った。 3. ロシア所蔵ウイグル語文献に関しては、ロシア科学アカデミー東洋文献研究所に趣いて敦煌将来品を中心に文献の調査を行った。その結果、11葉のウイグル文字で書かれた漢文断片の存在が判明し、それらを転写して内容の同定に従事した。11葉のうちの3葉が漢文『聖名吉祥真実名経』を音写したものであることが解った。また敦煌出土の8葉の漢字漢文断片の漢字に付せられた音注漢字がウイグル漢字音の読みをもつことが解った。これは90年代半ばから継続しているウイグル漢字音の研究に役立つものである。 4. ベルリン・ブランデンブルグアカデミーの所蔵品のU5199はウイグル文字表記の漢文であるが、精査した結果、モンゴル帝国時代の漢語口語音を表示したものであることが判明した。
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