研究概要 |
本研究の目的は,16世紀のニュルンベルクにおいてパンフレットやビラという形態で出版された様々な種類のテキストの文体を分析することにより,新メディアである活版印刷が当時のニュルンベルク市民の言語使用に影響を与えた可能性を探ることであり,具体的な解明点の一つとして掲げられているのが「特定の種類のテキストに典型的な文体はあるか」という点である。 研究代表者の森澤は平成20年度に,時事報告(Neuigkeitsberichte)における関係詞の分布が当時の威信言語である官庁語及び一般市民の言語のそれとは異なるとの調査結果を得,その一因を時事報告というテキストが持つ内容上の特質との関連で探る試みをした。関係詞に着目したのは,der及び16世紀にこれと競合するso, welcherは,先行研究においてそれぞれ異なる文体上の機能を持つと見なされていることから,その分布の調査はテキスト種の文体的特質を知るための一手段となりうることによる。平成21年度にはこの関係詞の分布とテキストの内容上の特質との関連性に関する考察をさらに深め,それをまとめて『福岡大学人文論叢』41巻2号に発表した。また,時事報告は,より詳細に検討するならば,天の超常現象,犯罪,社会情勢等,様々なジャンルのテキストに分類することができるため,その中の一つで,16世紀の市民に多大な関心を持って読まれたとされるトルコ情勢を報じるパンフレットを取り上げ,そこに見られる文体の分析も試みた。その成果の一部は『ドイツ文学』140号に掲載された拙論に反映されている。 夏季及び春季休暇中には旅費を用いてドイツ及びスイスに出向き,時事報告以外のパンフレットとビラ,例えば宗教的内容のテキスト等についても収集を行ない,そこに現れる関係詞の分布に関する調査を進めた。
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