本研究は日本語方言の研究において大きな成果を上げてきたグロットグラムの手法を中国語方言に適用することによって、方言の地理的変異と年齢的変異の相関を明らかにしながら、言語変化を促す社会的諸要因を解明することを目的としている。対象地域は江蘇省南部の蘇州、無錫、常熟一帯(北部呉語地域)である。 過去二年間、方言調査、データ整理、方言地図作成、グロットグラム作成を進めてきたが、今年度はそれらの基礎の上に、代表者・石汝杰が3回の補充調査を行った。夏季休暇期間に2度の調査を実施し、15地点を調査した。また冬季休暇期間に、蘇州近郊の312国道沿線の6個地点に調査を実施した。これらの調査資料については、現在、整理、分析を進めている。 分担者・岩田礼は、石汝杰が現地調査で収集した言語データ情報をデータベース化する作業を進めた。データ入力ツールは岩田等が構築してきたPHDシステムを一部改良した上で利用し、その出力を方言地図及びグロットグラム作成のために用いた。地図は福嶋秩子氏作成のSEALを利用し、グロットグラムは独自に作成したツールを用いた。 本研究の成果は、昨年11月に北京語言大学で開催された中国語言語地理学国際会議などで発表したが、現在、学術誌投稿論文の準備を進めている。グロットグラムの手法を中国語方言に適用する試みは、中国語大陸ではおそらく初めてのことであり、近い将来、調査地域の方言地図・グロットグラム集を公刊する予定である。
|