『契丹語辞典』の編纂は契丹言語文字研究史上初めての課題である。本課題研究は、7年來の着実かつ豊富な契丹文字研究の成果を基礎とするものである。研究代表者が研究計画調書を作成する間にも、中国内蒙古と東北地区で大量の契丹文字を記した文物が出土したとの朗報を得た。毎年新出土資料が出現するといった豊富な学術環境のもと、現有の研究成果を総括し、さらに単語のデータベースを充実させた上で契丹語辞典の編纂に踏み出せば、今後の契丹学において必ずや予想以上の成果を獲得することができよう。本年度は、まず収集した契丹文資料を字形を基礎に鑑別して全て電子化した。さらに契丹語の単語の意味を推定すると同時に、継続的に契丹大小字の音価を復元した。解読範囲を拡大するための基礎研究作業の一つとして、解読済みの単語を国際音声記号(IPA)に転写した。この作業の完成によって、次年度に行う契丹文資料の全面的解読、収集しえた契丹文資料の全体的翻訳、及び正史その他の漢文史料及び漢文墓誌の記述との比較研究に堅実なベースを作った。 本年度においては研究の基本的な準備段階として以下のような作業を進めた。 (1) 墓誌以外の大量の契丹文字離散資料を精査・分析し、コンピューターに入力した。 (2) 以上の資料に出現する新字を電子化し、既存のデータベースを拡充した。 (3) 入力済みの契丹文字資料に見える単語を引き続き解読した。 (4) 契丹文字データベースをさらに充実し、契丹語辞典の編纂の準備を行うため、資料調査・収集を実施した。
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