研究概要 |
日本手話(以下JSL)における連続動詞構文のうち特に「行く/来る」を第2動詞として含む文で,特に「来る」を取る場合,共起する動詞の意味の変化(移動動詞か変化動詞か瞬間動詞か)に従って,構文全体が「状況の変化」から「近い未来に起こる変化」を経て,「未来」を表す要素となることを明らかにした.そして音声言語と比較をした類型論的研究によって,このような未来表現が生まれる過程は,日本手話に独特の文法化ではなく,言語全般に見られる文法化のプロセスを踏んでいるということ,また同時にBybee(1994)が「未来」の時制を表す表現は必ず文法化の過程で「意図」の意味を表す過程を経ると主張しているが,日本手話においてこのような過程は見られない事から,Bybeeの主張は正しくないと考えることができることを主張した. さらに,コンサルタントからの手話データの詳細な分析から,経路動詞である(そして多くの場合類辞動詞である)第1動詞または第2動詞の移動方向,またはサイナーの目的地への体の向きが,移動構文を成立させるのに必要であることはすでに明らかにしていたが,これ以外にもSVC構文でなく、ひとつの様態動詞動詞しか含まない文であっても,「動詞を表現する際の目的地への視線」があれば,目的地への移動を表す構文を成立させることが出来ることを観察した.
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