平安時代語の文芸作品を対象として、名詞修飾の用例を継続的に調査した。そのうち、奈良時代から鎌倉時代に至る主要な文芸作品に現れたキ・ケリ・ツ・ヌ・タリ・リの名詞修飾語脈をすべて採集して、形容詞的用法であるか否かを選別し、標本を作製した。所定の目的を達したと判断したので、平成21年度日本語学会秋季大会(島根大学)で研究発表を行った。その概要は以下の通りである。奈良時代から鎌倉時代に至る主要な文芸作品中の過去辞キ・ケリ・ツ・ヌ・タリ・リが介入する名詞修飾のうちでタリ介入型のものが最大である。特にタリが介入する多数の形容詞的用法は、現代日本語においても使用に耐えうるような、汎用性の高い、すなわち歴史的耐久力の旺盛な強力な表現力を持つものが多数存在する。かかる王朝古典文学全体の傾向が中世語以後の過去辞タリ一極収束への主要因になったと推定する。
|