まず、本研究の目的を示すと次のとおりである。 1).方言資料の乏しい地域を選択し、高齢話者の琉球方言の記述的研究を行い、琉球方言資料の増幅に努める。これは、次世代に方言が継承されていない現状では、急務である。 地域としては、琉球方言区画上、北琉球奄美方言に属する鹿児島県大島郡瀬戸内町与路島方言、鹿児島県大島郡瀬戸内町請島方言、鹿児島県大島郡喜界町花良治方言とする。これらの地域は琉球方言の中でも調査資料が少ない地域であり、中本正智(1976)『琉球方言音韻の研究』等に断片的な資料がみられる程度である。 従って、音韻、文法、語彙の体系的な調査を行いその実態を明らかにし、基礎資料の充実をはかる必要がある。 2).今回対象とする地域は、琉球方言の中でも特にバラエティに富んだ音声が多く観察される。これらの特徴的な現象の中には報告はされていてもその要因及び成立について明らかにされていないものが多い。例えば、喜界島の/〓/の音素は、琉球方言の中では、他に与那国島でしかみられない音素である。平成17年度の科研費で調査した与那国方言の調査資料とも比較考察したいと考えている。 以上の目的を達成すべく、平成20年度は与路島方言の調査研究を以下のとおり行った。 1.音韻体系の調査 2.動詞・形容詞の活用体系の調査 音韻調査については、ほぼ完了し音韻体系を明らかにした。大きな特徴としては、例えば、[k〓it(傷) [t〓〓i〓](血)のように無気喉頭化音がみられることや、[kawa](鎌)のようにマ行のW音化(破裂が弱まり鼻音が残る)等が、あげられる。動詞・形容詞の活用については、引き続き補足調査が必要である。 これらの調査資料はI.P.A(国際音声字母)表記で記述し、多くの研究者が利用できるように整備している。
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