今年度は、鎌倉時代聞書類の原本調査、関係資料の閲覧調査として、高山寺、立命館大学、京都府立総合資料館に赴き、所蔵の古典籍調査を実施した。 特に、高山寺と立命館大学では、本研究テーマの中心に据えている明恵上人高弁に関係する資料の原本調査を推進した。 特に、立命館大学蔵「護身法事」と、高山寺蔵「梅尾御物語」とは、密接に関係する資料として注目される資料である。「護身法事」は明恵撰述書として知られており、立命館大学蔵本は、伝明恵上人自筆本として重要美術品に指定されている。しかし、原本調査の結果、同書の書写者は明恵ではなく、弟子の空達房定真であることが判明した。加えて、同書の本文は、その大半が、定真編集の「梅尾御物語」から抄出されたものであることが明かとなった。「梅尾御物語」は、定真が明恵から伝受した種々の聞書を類聚したものである。つまり、「護身法事」は、明恵撰述書ではなく、定真によって、自ら類聚した「聞書集」たる「梅尾御物語」を素材として、あたかも明恵を授者とする護身法の独立した伝受の場における聞書を基盤とするかのように仕立て上げられたものである。この点の解明により、従来知られていた随心院蔵「護身法事」、同「護身法功能鈔」の相対的な位置付けも明らかにし得る可能性が出てきた。 以上の概要は、次の論文にまとめた。 ○土井光祐「「聞書」から「撰述書」へ-伝明恵撰述書「護身法事」における本文の生成と伝承とを事例として-」(『駒澤國文』第46号、平成21年2月21日) ○土井光祐「立命館大学藤井永観文庫蔵「護身法事」(高山寺旧蔵「護身法等記」)と高山寺蔵「梅尾御物語」-解説と対照本文-」(『平成二十年度高山寺典籍文書綜合調査団研究報告論集』平成21年3月31日)
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