昨年度に引き続き、鎌倉時代法談聞書類の内、特に明恵関係資料を中心として、高山寺経蔵における原本の実地調査を実施し、特に、密教の口伝の活動に基づく諸資料(「梅尾御物語」「真聞集」等)を調査した。 昨年度に調査した立命館大学蔵「護身法事」(「護身法等記」)が、その原態本が定真編「梅尾御物語」であることが判明したので、両者の言語比較に基づき、同じ編者である定真自身の本文整定の態度を確認した。更に、後の受容者に位置付けられる隆弁の編集にかかる「護身法事」と比較することによって、伝承過程において加えられる本文改変の実態を確認し、「護身法事」三本の資料性について検証した。 「梅尾御物語」と立命館大学蔵「護身法等記」との間においては、原則として原態本たる「梅尾御物語」の言語をできるだけ損ねることなく、表記の統一、表現の統一、漢文表記に対する周到な加点による語形・訓法の明確化、改行による章段・文脈の区切れの明示、私注の増補、引用句導入形式の付加による文章構成の明確化等の工夫が周到に加えられていること、そこには原則として原態本たる「梅尾御物語」の言語をできるだけ損ねることなく実現しようとする意識が看取されること、その背景には、師である明恵上人の法談を基盤とした「護身法」の口伝書として統一性と完結性とを備えた一書に整えようとする定真の言語意識が通底していると考えられること等が確認された。随心院蔵「護身法事」では、「梅尾御物語」の参照は確認されるものの、かなり大胆な改修、改変が加えられており、後に付加されたことが明らかな夾雑的要素が相当数確認された。
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