昨年度に引き続き、鎌倉時代法談聞書類の内、特に明恵関係資料を中心として、高山寺経蔵における原本の実地調査を実施し、特に、密教の口伝の活動に基づく諸資料(「梅尾御物語」「真聞集」「蓮實鈔」「金剛界口伝小野」「胎蔵界伝受記」「字輪観等」等)を調査した。 今年度は、金沢文庫蔵「解脱門義聴集記」の漢字データベースの構築を進めた。「解脱門義聴集記」は、栂尾高山寺中興の祖である明恵房高弁(1173~1232)が自著「華厳修禅勧照入解脱門義」に対して講説を行ったところを弟子が聞書したものである。弟子の順性房高信による周到な編集を経ているために、明恵の講説の聞書部分の他に、私注や他典籍からの章句の増補が膨大に施されている。従って、全体が等質の言語的性格を有しているわけではなく、異質な要素が混在、並置されているものであり、表記的にも各々の要素によって断層が存在している。 漢字データベースの構築に際しては、本資料の文章構成要素を、【A】段落冒頭に置かれた原典「華厳修禅観照入解脱門義」の章句、【B】明恵上人講説による聞書部分、【C】義林房喜海講説による聞書部分、【D】私注、【E】他典籍からの引用文、【F】裏書、の六種に分類し、各漢字が文章構成要素のどこに使用されたものであるかがわかるようにした。漢字データベースの構築は、漢字と和語との対応関係、漢字字体の状況の詳細な分析を行うための基盤となるものであり、今後整備を予定している用語データベースと関連させて、「解脱門義聴集記」の総合的な記述的研究に発展させたい。
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