本研究は、日本語による言語的発想が、統語上は節(命題)構造を用いて表現するのが普通であるのに対し、英語による言語的発想では、名詞を主要部として従属節を従える複合名詞句構造および関連名詞中心構造を好む、という作業仮説のもとで、日本語の節構造における代表的な意味関係が担う意味機能が、英語においてどのような内部構造をもつ名詞中心構造によって果たされることが多いかを明らかにすることである。この目的を達成するために、各研究分担者は、これまで個別に行ってきた英語学的研究のうち、「名詞を中心とする構造を用いた言語化・メッセージの伝達」に関わる成果を「名詞を中心とする構造の特徴づけと名詞を中心とする表現形態から見た文法と英語表現教育の高度化」という視点から整理した。具体的には、(1)名詞を主要部とする従属節構造の中に生じる助動詞表現と動詞・不変化詞の生起状況について意味論的・統語論的な分析、(2)生成統語論の手法を用いて、統語的に名詞句として特徴づけられる言語表現について、日英語の比較対照分析、(3)ポライトネス理論、メタファー・メトニミー分析の視点から、複合名詞句構造の従属節内に見られる、主として述語表現上の特徴について語用論的考察を進めた。以上を総合する形で、最終年度である本年度は、「英語における名詞の多使用性」という言語表現上の視点から、これまでは個別作業において取り上げられなかったが、類似機能をもつ可能性のある名詞を主要部とする命題表現構造を分析の範囲に含め、名詞中心構造の統語的・意味的性質の整理を試みた。結論として、本研究の作業仮説をもっとも明確な形で証明する事象は、いわゆる「潜伏命題」とも言える英語の関係節構造であり、主要部名詞句が不定表現の場合には無色の命題的節内容を表し、主要部名詞句が定表現の場合には情緒的節内容、特に感嘆文に相当することを明らかにした。
|