本研究の全体的な目的は、言語の並列モデルに基づいて表示レベル間で主要部の不一致を示す言語現象を中心に対照言語学的分析を行い、特定の言語事象にみられる変異や言語理論に対するその帰結を明らかにすることである。平成20年度は特に疑似部分格構造の分析を中心に研究をすすめ、その成果の一部をAsaka(2009)"On the Multiple Semantic Functions of the Pseudo-Partitive Construction"として発表した。 同論文の内容は次の通りである。1まず、当該の構文は、その構成要素が一定の統語的自律性を保持しながら、意味的には、数量表現としての性質を示すことに加えて、非有界性を有界性に転換する機能をも同時に果たしていることから、解釈意味論的前提に基づいて、複合的な数量詞を統語レベルに仮定する従来の分析では、これらの特性を包括的に捉えることが困難であることを明らかにした。2その上で、形式と意味との関係を対応関係としてとらえる並列モデルの接近法に基づいて、当該の構文を独立の語彙項目としての構文とする分析を提案した。特に、この構文においては、単一の統語要素が異なる複数の意味要素に対応する形で統語と意味との間に一対多の対応関係が成立していることを示し、この構文にみられる複数の意味機能をこの対応関係の帰結として説明した。3さらに、英語以外の言語における関連構文に言及しながら、語彙範疇である名詞が、補部の選択において機能範疇的な振る舞いを見せることに注目し、同構文の統語的具現形式にみられる変異の可能性と文法化の関際について考察した。
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