本研究の全体的な目的は、言語の並列モデルに基づいて表示レベル間で主要部の不一致を示す言語現象を中心に対照言語学的分析を行い、特定の言語事象にみられる変異や言語理論に対するその帰結を明らかにすることである。平成21年度は、疑似部分格構造と直接部分名詞句構造の分析を中心に研究をすすめ、その成果の一部を「疑似部分構造に生起する数量詞的名詞について」として発表した。 同発表の内容は次の通りである。1疑似部分構造においては、統語的主要部の位置に生起する名詞が、統語的には名詞に対応し、意味的には数量詞に対応する語彙項目であることを提案し、この要素の性質を説明するとともに、当該の名詞を統語的数量詞の一部と見なす先行研究や、同構文をその内部に述部を含む名詞句とする分析の問題点を明らかにした。2次いで、オランダ語などに見られる直接部分名詞句構造が、英語の疑似部分構造と統語的・意味的に諸特徴を共有する表現であることを示すとともに、同構造を統語的数量詞や半語彙範疇の存在に基づいて説明する先行研究の問題点を指摘した。3その上で、英語においても直接疑似部分構造の形式を持つ表現が観察されることをふまえて、疑似部分格構造と直接部分名詞句構造を、基本的に同一の概念構造に異なる統語構造が対応することによる変異として統一的に捉える分析を提示した。4さらに、これらの構文に見られる、数量詞と名詞との間に位置づけられる中間的範疇の存在に関して、文法化の観点から考察を行った。
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