本研究の全体的な目的は、言語の並列モデルに基づいて表示レベル間で主要部の不一致を示す言語現象を中心に対照言語学的分析を行い、特定の言語事象にみられる変異や言語理論に対するその帰結を明らかにすることである。平成22年度は、形容詞的名詞構文と疑似部分構造に共通して観察される統語的主要部名詞の範疇特性の変化を中心に研究をすすめ、その成果の一部をDenominalizing Constructionsとして発表した。 同論文の内容は次の通りである。(1)名詞の基本特性が意味レベルにおける指示指標に還元されるとの提案を行い、構文の特性として指示指標の削除を規定する脱名詞化構文が存在することを論じた。指示指標を統語的要素とする分析の問題点を指摘した上で、形容詞的名詞構文において観察される統語的主要部名詞の形容詞化を当該構文における脱名詞化の帰結として説明した。(2)さらに、疑似部分構造において観察される統語的主要部名詞の数量詞化も同様に脱名詞化の帰結として説明されることを論じ、この二つの構文に対する統一的な分析を提示した。述部名詞、数量詞、形容詞がある一定の環境で同じ振る舞いを示すことからこの分析が経験的に支持されることを論じた。(3)名詞句内部における主要部・非主要部の逆転現象については、近年では、述部倒置に基づく統語分析が行われてきたが、本研究では、指示特性に着目した意味分析により、この問題に対するあらたな接近法の可能性を示した。具体的には、名詞が統語的には主要部でありながら意味的には従属化される当該の逆転現象が、意味レベルの特性変化によりとらえられることを論じた。
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