本年度の研究計画は、『マンデヴィル旅行記』を主な分析対象として、主要な形容詞について、単数形と複数形の双方の無標の形式と有標の形式を確定し、限定用法と叙述用法のそれぞれにどのような特徴が現れるかを明らかにすることであった。分析の結果、第一に、中英語の形容詞の語尾に関する語源と屈折の型に基づく従来の一般化は、少なくとも『マンデヴィル』には有効ではないこと、第二に、この旅行記の書き手は形容詞の語尾-eの有標性と無標性をはっきりと区別していたこと、第三に、語尾の有無と数に関する類型化を行うと、この文献の形容詞が3つの型に分けられ、それぞれ分布と頻度に関して顕著な特徴を示すことを指摘できたことである。これらの分析結果は、通説と大きく異なるだけではなく、その正当性はデータと理論によって裏付けられていることから、学界において今後、高い評価が与えられる期待が持てる。上記の研究成果は、平成20年11月15日の日本英語学会第26回大会において発表し、さらに同学会の研究発表論文集JELS26(pp.51-60)に掲載された。上記の研究と並行して、中英語のwhan that型の連結従属接続詞とリズムについて研究を行い、その成果はTsukuba English Studies27号に"On the Function of That of ComplexConjunctions in Late Middle English"(pp.1-11)としで収録されている。また、古英語の所有代名詞と人称代名詞の属格形の形式と機能の区別に関する分析結果はBenjamins社から刊行予定のThe Development of the Anglo-Saxon Language and Linguistic Uni-versals Vo1.1の論文"Old English Pronouns for Possession"に発表した。
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