研究概要 |
本年度はボドレー版(以下、B写本)の『マンデヴィル旅行記』の形容詞の語尾-eを対象に分析した。最初に、この写本の個々の形容詞について、単数・複数のそれぞれの無標・有標の形式を確定した。その結果、頻度数の多い在来の形容詞gret 'great', fayr 'fair', good, holy, long, yong 'young'の場合、単数形は無語尾が無標、複数形は-eで終わる形式が無標であることが明らかとなった。一方、riche 'rich'は単数の無標の形式が-eで終わるが、dyuers 'diverse'とpreciousは複数形に無語尾が多く、他の形容詞と反対の傾向を示す。これはフランス語からの借用語であることから、原語の綴り字の影響の可能性があることなどの指摘をおこなった。 次に、前年度にコットン版(以下、C写本)について設定した「主要語の後ろという有標の位置に生じる後置形容詞は無標の形式に限られる」という仮説はB写本にも当てはまることを証明した。 さらに、頻度数の少ない形容詞についても、無標・有標の区別を明確にした上で分析を行った。その結果、B写本はC写本より成立時期が50年遅いとみなすSeymour (1963, 1967)の説は事実に反することを指摘した。また、語末の-eの脱落は1400年頃までとするMinkova (1991)の説は、それ以降に成立したとみなされるB写本の形容詞は古英語や古フランス語の語尾を維持している確率が高いことから、再考の必要がある。 昨年度と今年度の研究成果は先行研究の見直しを迫るものである。また、分析基準や仮説は妥当なものであり、成果が学会誌や研究紀要等に公刊され、加えて、平成22年度の研究も大きな成果が期待できることから、今後、英語史の分野の研究に大きな貢献をすることになろう。
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