本研究は、形式語用論と認知語用論という異なる角度から情報構造上の概念を洗い直し、日英語の言語事実を詳細に検討しながら、その理論的な意義を再構築しようとする試みである。本年度は、20〜22年度における本格的な研究のための準備となる考察をいくつか並行して行った。(1)情報構造に関係する各種の理論的な概念についての最新の動向を調査した。形式語用論の立場からは、談話や対話を扱うための形式的な道具立てについて比較検討し、情報構造を扱うにはQUDという概念に基づくモデルが依然として有益であるものの、修辞関係や会話の含意を理論内に適切に組み込む必要があることが確認された。また、認知語用論的な立場からは、関連性の概念を用いた説明の可能性が検討され、基礎的データに対して分析の方向性が示された。(2)日本語および英語のコーパスを導入し研究環境の整備を図るとともに、大規模コーパスの活用および効果的な用例の抽出方法についての検討を開始した。関連して、英語の名詞句の解釈に関する副次的な分析を行った。(3)情報構造上の概念と関係する言語現象についての先行研究の検証を行った。とりわけ、日本語の主題と修辞構造の関係および英語の冠詞と関連性、特定性とのかかわりについて予備的な考察を行い、翌年度以降の研究の方向づけを行った。21年度以降は、本年度で確定した研究方針に沿って、情報構造上の諸概念を支える言語事実を収集・検討し、両者の関連を実証的な考察を通じて解明してゆきたい。
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