研究概要 |
研究最終年度にあたる今年度は,井上(2012)において以下の点を明らかにした。第1点目は,it is (形)/(名) (for A) to do型構文〔(形)は形容詞,(名)は名詞の略〕の名詞に関する考察である。It's easy (for me) to make mistakes.やIt's a pleasure (for us) to be here.といった用例で知られるこの構文であるが,基本的にこの構文は話し手・書き手の判断・評価を表すため,その機能に応じた形容詞や名詞をit isの後に伴うことになる。形容詞については比較的頻度の高いdifficult,hard,easyなどが取り上げられるが,名詞については,EFL/ESL向け参考書で重宝されるfun, pity, pleasure, shame (Alexander 1988)などを扱う場合がほとんどである。ところが,これらの名詞は頻度においては上位ではないため,学習効率・満足度の点では問題がある。コーパスに拠れば,It is a good thing for a man to have nothing to do with women.といった(形)+thingが圧倒的に上位に現れ,その半分弱の頻度で(形)+idea,4分の1程度の頻度で(形)+practice,((形)+)mistake,((形)+)matterなどが続く。特に汎用的な名詞のthingが前に多様な形容詞を伴って幅広い表現で現れることは注目に値し,学習による表現力の飛躍が期待できる。第2点目は,it is (形)/(名) (for A) to do型構文におけるfor A句の出現頻度である。意味上の主語を表すfor Aは文脈から明らかで省略されることが多く,明示されるのは全体の1割程度であることを見た。辞書や参考書における今後の対応が望まれる。
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