言語生成が、複数の生成装置によって構造的に生成され、それらの間の相対的な関係、とりわけ、ゲーム理論的な関係によって相対的に評価され、最適な出力が得られるというのが本研究の主要な仮説である。そのような関係を数理的な利得表を介して捉えようと試みてきたところである。 このような観点から言語の変化、あるいは言語の進化というものを形式的に捉えようと試みたのが当該年度の前半での試みである。とくに日本語の「ら」抜き言葉、文体に依存する調音上の多様性について分析を行った。前者については、「ら」を抜く事がむしろ意味解釈上の効率化と調音上の簡潔化をもたらしており、これが当該現象の伝播を促す動員となった。1月のソウルでの国際学会では、そのような言語変化が、話者・聴者間にとって相互に互恵的関係(win-win situation)にあるという事を述べた。 研究の前段において、最適な言語形式、言語変化というものを規定し、それらに対して利得表を設定していく事で、「最適な出力は如何にして得られるのか」という問題を逆推論する(reverse-engineer)形で研究を展開してきた。新年の発表はこの研究方針を大きく変える事になった。言語行為に関わっている意志主体(agent)間の関係が相互互恵的な場合が最適な出力を生むという方向に研究は展開される事となった。これによって、これまでの考察対象についての説明が得られるだけではなく、逆推論の蓄積による仮説形成がやや反証可能性に欠けるという部分をも克服する事を可能にした。「言語は、意志主体間の相互互恵的な関係の上に成り立っている」という仮説はより反証火の異性の高い理論体系を与える事となった。
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