平成21年度には、交付申請書に記入した通り、主に、以下の2点を中心に研究を進めた。1.本研究で定義された主観性の概念を様々な側面から応用的に検証する。2.本研究の主観性が、認知メタファー理論に関する身体性、経験基盤の概念とどのように関連するのか検討する。 これを達成するために、11月の日本英語学会においてシンポジウムを開催し、メタファーと主観性をテーマに、コンピュータ科学研究/脳科学の分野から、月本洋氏、言語学の分野から篠原和子氏、心理学の分野から楠見孝氏を招いて、谷口和美氏の司会で主観性とメタファーについてご発表いただいた。この結果、篠原氏の研究からは、移動のメタファーにも主観的認知が重要な役割を果たすことがわかった。月本氏の発表は、脳の構造と言語処理の違いが、自他区分の違い(主観性の度合いの違い)を生むという画期的な提案であった。楠見氏は痛みをテーマに強度の痛みの方がリテラルな表現となりやすいという興味深いデータを提示していただいた。本研究における主観性との整合性を検討する必要がある点で大変貴重なシンポジウムであった。 さらに、心理学的研究を中心にメタファー研究の論文を収拾し、文献書誌を作成した。今後、これらのメタファー研究を精査し、主観性に関連の深いものを解説しながらインターネット上で利用可能にする予定である。 このほか、フランス語学会シンポジウムのシンポジストおよび国立台湾大学の講演者として招待を受け、講演の中で主観性とメタファーの関連等に関して研究の現状を報告した。 さらに、前年の日本人工知能学会でのシンポジウムを人工知能学会の特別号として出版する計画が持ち上がり、現在、その期日、フォーマット、執筆者等を検討済みである。
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