平成22年度には、交付申請書で述べた通り、全体の総括をするシンポジウムが企画されていた。このシンポジウムは、平成23年3月25日、26日に関西大学で、人工知能学会ことば工学研究会の一部として企画された。その骨子は、ラネカーの主観性について包括的な発表と議論(司会:金沢大学中村芳久教授)、認知言語学および関連分野における主観性の主要な3つの理論の比較と差異の検討(池上嘉彦教授、中村芳久教授、広瀬幸生教授、司会:東北大学上原聡教授)、関連分野からの主観性と間主観性に関する発表(本多啓、片岡邦好、名古屋大学文学部哲学研究科宮原勇)、招待講演(発達と間主観性の観点から松井智子先生、脳科学の観点から杉浦元亮先生、全体討議(司会:鍋島弘治朗)からなる包括的なものであった。残念なことに、東北太平洋沖大地震の影響で、一部の参加が困難になり、共同主催者の中村芳久教授、上原聡教授と十分に検討し、中止という苦渋の選択を取ることになった。参加予定者に地域や家庭でより急務となる役割が生じている以上、必然的な措置であったと考える。しかし、事前準備段階で、登壇予定者同士の議論が行われ、さらに、ことば工学研究会の枠で本来発表予定であった内容の一部は、ことば工学研究会の枠で発表され、実りある議論が展開された。加えて、平成20年度に行われたシンポジウムの内容を人工知能学会誌において特集として出版することになり、平成23年7月号として、10名余りによる人工知能、発達、言語、社会言語学の観点からの論考が登場する予定である。国際面に目を向けると、鍋島がニュージーランドのダニーデンで1月に行われた認知と第二言語習得シンポジウムに招待を受け、主観性とメタファーに関してJohn TaylorやDirk Geeraertsといった著名な学者のいる聴衆に対して、本研究を国際的に発信した。
|