本研究は、「日本語日本事情教育」を複合的な観点から統括的かつ総合的に捉え返し、「言語・社会・文化・教育を包括する言語文化的・社会文化的な実践力育成教育のための基礎理論」の構築を目指し、多様な言語文化的教育現場の特殊性を通底するような「汎用性の高い教育シラバス案の開発・考案」を目指そうとするものである。この目標を実現するためには、一方において、1)思想史的・哲学的な立脚点を確保するための系統的・思索的な文献研究が、また他方において、2)教育現場における具体的・実践的な活動実態の特徴や可能性を把握するための観察・調査研究が必要である。本研究は、これらの文献研究と調査研究とをほぼ並行して行う計画である。 21年度は、思想史的・哲学的な立脚点を確保するための系統的・思索的な文献研究を継続・深化させ、多言語・多文化社会ないしは複言語・複文化社会における「言語文化教育論」ないしは「言語・社会・文化・教育の統括理論としてのリテラシー教育論」、そして「言語習得に関わる認知発達・言語発達・行動発達論的な研究成果」に関する諸論考のリストアップを進め、文献研究の領域的な視界を拡充しつつ理論的・実践的なアイデアに関するデータの蓄積を充実させるべく努めてきた。他方において、教育現場における具体的・実践的な教育活動実態の特徴や可能性を把握するため、日本国内・外での言語教育学系、社会哲学系の研究会などに参加して知見を拡大するとともに関係者からの聞き取りを行うなど、関連領域に関する視野を押し広げる作業を行った。また、スロベニアで開催された英語を媒介語とした「院生フォーラム」に大学院生を引率して参加し、言語文化的コミュニケーションの実態やアカデミックな異文化間コミュニケーションの実情をつぶさに観察する機会を持ち、貴重なデータを収集した。
|