研究概要 |
従来の言語不安に関する研究は言語不安の高低に着目しているが,本研究では不安反応の解釈,失敗の効用の認識に着目して,学習方略指導の側面から働きかけを行うe-learning教材を開発し,その効果を検証した.働きかけの対象として学習方略使用を選び,そこに働きかけることで,情意的側面の改善を図り,それが再び学習方略使用の促進へとつながるというスパイラル的関係を想定した.学習方略を指導しながら不安反応の解釈を変化させるという指導方略を考え,方略指導の無い統制群,方略指導を行う実験群に分けてe-learning教材で実験を行った.教材の内容は日本語教育における待遇表現の指導であり,対象者は上級日本語学習者である.事前-事後調査の比較では,不安反応の解釈は実験群と統制群とでは有意に差があり,実験群は不安を促進的に捉える傾向が高まることが明らかになった.今回の実験で実験群と統制群の大きな違いは,「失敗の効用を認識」の変化である.統制群では若干上がっているが有意な差が見られないのに対して,実験群では有意に上がっている.さらには,最も指導を行うべき対象である不安高・原因帰属高・失敗の効用を認識低の学習者では,実験群では統制群より事後テストの伸び率が高くなっているほか,実験群の「失敗の効用を認識」が若干であるが高くなり,「失敗を不安に原因帰属」する傾向は有意に下がっている.これにより,日本語教師は学習方略を指導することにより,不安反応の解釈を変化させ,学習効果を高めることが可能であることが示唆された。
|