上級日本語のコースでWikiを利用し、共同執筆による論文作成および口頭発表を目的とする授業を実践した。コースは週2コマ9週間、対象学生は上級レベルの日本語学習者11名、中国、台湾、韓国、フランス、アメリカからの留学生である。3名~4名のグループを構成し、(1)テーマと内容(2)構成、(3)調査・作業・執筆分担を決めて教師の指示したスケジュールにのっとり論文の構成を意識しながら意見交換、口頭発表練習、執筆活動を進めた。教師はWiki上のフォーラムへの執筆を通して進捗状況を把握し、適宜フィードバックを行った。初稿の段階でピアレビューと同時に、外部からのレビューを求めて論文の質を高めることを目指した。論文の最終原稿は認証つきのウェブサイトにオンラインジャーナルとして掲載し、学期末に口頭発表会を行った。テーマは教育に関するもの、社会問題に関するもの、日本人論に関するものである。授業で目指したことの中で評価できる点はだれにこの論文を読んでほしいかを話し合い、読んでほしいと思う対象を想定して執筆したこと、またその対象となる人にアプローチしコミュニケーションをとる努力を促したことである。執筆活動過程の観察と学習者の反応からこのコースのデザインにおける今後の課題は次のとおりである。(1)ウェブ上に作品を公開するための「練習」が必要である。初めて公開する作品は自信をもって掲載できるものを選ぶ。初めて執筆した「論文」の公開にはためらいや負担感がある。(2)作品を「読んでほしい人」は身近で安心できる人から始め、次第に見知らぬ人に広げていく。(3)グループ内で歩調を合わせて執筆活動を進めるにはコミュニケーションが欠かせないが、お互いが外国語(日本語)であるため、母語以上に時間的な余裕が必要である。従って課題(論文の内容と量)の難しさと共同作業に要する時間のバランスをコースデザインの中に組み込むことが必要である。
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