第二言語習得分野全体における本研究の位置づけとして、ベースになる研究路線の理論(情報処理の立場から習得をとらえるアプローチ)の研究動向について整理し、第二言語習得研究会のシンポジウム「日本における第二言語習得研究の軌跡と今後の展望」の中で発表した。その中で教室指導の第二言語習得に対するインパクトは、認知、特に記憶のメカニズムやプロセスと関連づけて説明する必要があることを主張した。記憶は習得のさまざまなプロセスに普遍的に関わっているのと同時に、個人差の生じるところでもあり習得の普遍性と個別性の双方の問題にも関わる。本研究では記憶のさまざまな側面(情報処理のプロセスを制御するワーキングメモリの中央実行系の役割、音韻情報を維持する短期記憶の役割など)に関して、被験者のデータを前年度に引き続き収集した。その他、学習スタイルの好みや動機づけに関するアンケート調査と日本語能力(スピーキングと読解〉などのテストも行なった。対面式で一人でデータ収集をしており、収集できるデータ数に限りがあるため、まだ後の統計分析のために、データを蓄積している段階である。しかし、研究補助者の協力を得て、これまでのデータの集計、入力作業やインタビューの文字おこし作業を行った。また、実証研究と並行し、理論研究として展望論文作成中であるが、その過程で新たに課題が生まれ、第一言語における個人差と第二言語における個人差との関連づけ、言語適性要素とされる音韻処理能力や文法的敏感さ、記憶の相互の関連性などの問題を探るため、さらなる文献調査を行った。
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