日本語学習者の言語運用能力と個人差要因である言語適性との関係を明らかにするために、文献調査の総括やデータの分析を行った。心理学など周辺関連分野からの知見によると、新たな個人適性としては、作動記憶の容量に加え、音韻処理能力との関わりが大きいことが示唆される。よって、従来の研究では測定されていなかった音韻意識や呼称速度を含む音韻処理能力と言語運用能力との関係についても分析し、また言語運用能力も正確さ、流暢さ、複雑さという情報処理の側面でとらえて分析を行った。初級学習者では、第一言語の文法機能に関するペーパーテストで測定した文法的敏感さは、日本語能力試験(文法・読解)との相関が高く、音韻的短期記憶と音韻意識はSPOT(文を聞き、その文の一文字がブランクの箇所にひらがな一文字を埋めるテストで、日本語の総合力を測るとされる)との相関が見られた。さらに回帰分析を行ったところ、日本語能力試験は文法的敏感さが、またSPOTは音韻的短期記憶が説明要因であることが明らかになった。正確さ、流暢さ、複雑さを指標とした発話データと言語適性との直接的な関わりは見いだせなかったが、日本語能力試験やSPOTの成績と平均発話長(統語の複雑さ)とアイデアユニットの数(機能的な複雑さ)との相関が高く、(間接的には)言語適性が高い学習者の方が初級段階では発話量が多かった。流暢さに関しては何ら関係が見られず、短期間の日本語学習では、言語適性がパフォーマンスに影響を及ぼすまでには至っていなかったと考えられる。従来の言語適性テストは特に文法的敏感さとして第一言語の文法のペーパーテストで測定してきたが、これはペーパーテストで測る第二言語の能力を予測することはできるが、自発的な発話を支える基本的認知能力としては、音韻意識や音韻的短期記憶の役割の方がもっと重要なのではないかと考えられる。
|