本研究は、19年度までの私の研究「議論の構造的差異を説明する異文化コミュニケーション・モデルの構築」に引き続き、議論(アーギュメント)という行為に焦点を当てる。本研究ではこれまでの研究結果を更に発展させると同時に、研究結果の応用を試みる。 20年度の研究で行った事柄は次の通りである。議論の構造を記述する4指標の使用は受け手に高く評価されるか、という点を明らかにするため、大学生を対象にした調査を二度に渡り実施した。調査の目的は次の通りである。19年度までの研究で、文化を問わず、議論志向性の高い人は、議論の中心的主張を後ろに配置する漸層的(climactic)構造よりも、それを前に配置する漸降的(anti-climactic)構造を用いる傾向が有意に高く、話題への関心が高い人は(a)一つのステートメントに対して二つ以上の異なる理由付けを伴う複合的(compound)ミクロ構造と(b)一つのステートメントに対する一つの理由が更に理由付けされるという形で連続的に展開する連続的(serial)ミクロ構造を多用する傾向も有意に高い、という点が明らかになった。また、日本人に関しては、議論志向性の高い人ほど、議論の中心的主張に対する理由付けを伴わない水平的(horizontal)マクロ構造よりも、直線的(vertical、linear)マクロ構造(中心的主張に対する理由付けを伴う)を多用するが、その会効果は主に話題への関心という変数を媒介しての間接的効果であることが分かった。では、議論志向性の高い人や話題への関心の高い人により多く使用される指標を含む議論は、受け手には効果的と認識されているのだろうか。20年度の調査により、前述の大部分の指標は受け手にとって効果的と認識されていることが確認された。
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