本研究では、複合名詞について、語順、派生形態素、屈折形態素に関わるデータを収集し日本語話者の英語中間言語文法の特質を明らかにする。本年度実施した研究は以下の通りである。1. 言語理論並びに第二言語習得研究に関する文献研究。昨年度に引きつづき、Harleyなどの名詞句分析に関する文献について、特に分散形態論を中心に理論的研究を進めている。また、Urano(2005)などの日本語話者による英語習得に関する文献研究、およびLardiere(2009)など第二言語習得のモデルに関する研究を進めた。2. 昨年度末に収集した母語話者のデータの分析をさらに進め、アイテムごとの分析や被験者ごとの分析を続けている。3. 母語話者のデータ収集で用いたマテリアルを用いて、第二言語学習者を対象としたデータ収集を行った。中央大学、学習院大学、東京学芸大学、東京外国語大学、ケンブリッジ大学に在籍する学生からデータを収集し、習熟度を測定した上で横断的に複合名詞の使用を見た。その結果、語順については(1) 初期の段階から英語母語話者の産出するNV-er(例paper ripper)が使われる、(2) 母語を習得中の子供が産出するVN(例rip paper) V-ing N(例ripping paper)のような誤りは見られない、(3) 初期には、V-ing N MAN(例ripping paper man)のような誤りが見られるが、習熟度が上がるにつれて消失する、(4) 日本語話者NV-ing MAN(例paper ripping man)のような形をNV-er(例paper ripper)よりも多く産出することが明らかになった。今後、V-sN-er (cats chaser)のような産出と習熟度、並びに語順の関係について調査を進め、そのデータに基づいて第二言語習得のしくみを明らかにするために、特に形態素と統語の関係について、極小理論並びに分散形態論の枠組みで記述説明する。
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