研究概要 |
本研究では、複合名詞について、語順、派生形態素、屈折形態素に関わるデータを収集し日本語話者の英語中間言語文法の特質を明らかにする。本年度実施した研究は以下の通りである。1. 昨年度に引きつづき、名詞句分析に関する理論的研究、母語習得、第二言語習得に関する文献研究を進めた。2. 母語習得に関する複数の先行研究のデータを詳しく分析し、論文を作成した。3. 昨年度収集した母語話者および第二言語学習者を対象とした産出データの分析をさらに進めた結果、母語話者に見られる語順と複数形態素(-s)の使用の相関関係(複数形態素-sはV(er)Nのように、NがVの後に続く場合にのみ見られる)は、第二言語学習者の場合には見られないことが分かった。4. 昨年度行った産出データ収集をもとに文法性判断タスクを作成し、データを収集した(西海,2010)。その結果、日本人英語学習者は英語母語話者と同様、0+V-erを正しい、*V+O PERSON、*V-er+Oを正しくないと判断したが、O+V-ing PERSONに対する判断はあいまいで、習熟度による変化は見られず、*V-ing+O PERSONは、習熟度が上がれば「正しくない」と判断できる傾向がやや強くなるものの、はっきりとした判断には至っていない。言い換えれば、学習者はV-ingを含む形式に対する文法性判断が揺れている。この揺れは、V-ingは、あるときは名詞に先行し(例:a running boy)、あるときは名詞に後続する(例:a boy running over there)という語順に関する一貫性のないインプットが原因と考えられる。また、N+V-erのNの数に関しては、Nが複数形である場合、不規則形(例children)であるか規則形(例cats)であるかに関わらず「正しい」と判断している。これは母語話者の判断とは異なっている。産出データにおいて、母語習得で見られた語順と複数の-sの相関が第二言語習得では見られなかったことを考え合わせると、日本語話者の英語中間言語文法においては、語形成規則に統語規則が適用されている可能性が示唆される。
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