研究概要 |
児童期に、自然な言語環境で外国語に触れた経験は、その後インプットが激減しても、外国語の発音に良い影響を与えるとされている(Knightly et al., 2003)。しかし、教室での早期外国語教育がその後の音声習得にどのような影響を及ぼすかは明らかでない。そこで、幼稚園から小学校5年生まで日本語イマージョンプログラムに在籍していた大学生で英語を母語とする日本語学習者と、伝統的なカリキュラムで同レベルの日本話コースを履修し、児童期に日本語学習経験のない英語を母語とする大学生の促音・非促音の発音を比較した。音響的な分析に加え、今年度は日本語母語話者による促音、非促音の聴取実験により、日本語学習者の促音をどのように同定するかを測定した。児童期に日本語イマージョンプログラムに在籍していた大学生、伝統的なカリキュラムで大学入学後日本語の学習を開始した大学生それぞれ13人、日本語母語話者6人が発話した促音を含む3語、含まない3語を2回ずつ繰り返したものを、日本語母語話者8人が促音か非促音のどちらに聞こえるかを判定した。その結果、イマージョン出身者も大学で初めて日本語を学習し始めた者も非促音が促音に判定される傾向があり、両グループとも有意差がなかった。また、促音ではイマージョン出身者のほうが正確で、日本語母語話者との有意差は見られなかった。すなわち、児童期に日本籍のインプットがあろうとなかろうと、母語にない音声よりも、母語にある非促音のほうが習得が難しいと言える。この結果は、児童期の第二言語のインプットが大人になってからの発音に良い影響を与えるという仮説は、イマージョン教育のような多くのインプットが与えられる教室であっても必ずしも当てはまらないと言える。また、母語と学習言語の音声が近ければ近いほど、その相違に気付きにくいというFlege(1995)のSLMの仮説の一つも支持される。
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