研究概要 |
人工的日英バイリンガル養育をされた二人の幼児の発話を資料として,動詞の用法の発達および日英語の使い分け能力の発達を分析した。動詞の用法の発達は,使用例と場面との結びついた親のインプットの(不完全な)再生から始まり,続いて未分析なチャンクの利用と語の入れ替え,さらに軸語スキーマにおける,主語,目的語,補語といった枠(slot)内の要素を入れ替えて創造的な発話へと進んだ。意味的な過拡張の誤用が見られたが,基本的な語順の誤りは少なかった。これは,4歳までの発話は完全な創造性が少ないことによるものと考えられる。第二に,二児の日英語の使い分け能力の発達を分析した。2歳以降に使い分けを始め,2歳6ヶ月までには多くおこなうようになった。使い分け行動の前に同等表現の使用が数ヶ月続き,同等表現の使用は使い分け開始後も続いた。使用言語の誤りを自己修正する行動は,使い分けが始まった後に見られた。誤用と混用は3歳近くになるとわずかになった。これらは,2~3歳の間に2言語の使い分けが始まり,次第に正確さを増してゆくことを示している。3歳以降は,文レベルで同一内容を日英語で正しく発話できている例が多数見られた。原因として,表現を未分析なまま個別に習得する項目学習の蓄積があげられる。同一内容を英語で表現できない場合は,状況に合う別の表現の使用,発話の回避,文構成の失敗,日本語の影響が見られた。これは,二児の項目学習への依存による表現の蓄積量の不足によるもので,規則学習の成果に基づいた創造的な発話をする段階に至っていないことが原因であろう。以上の結果は,用法基盤モデルに合致している。
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