平成21年度は、アメリカ連邦最高裁判所の最初期の判例50万語、直近の50万語、その中間期の50万語、同時期のイギリス貴族院判例のコーパスと合わせて6本の司法英語コーパスを構築し、そのうちの5本までをBiber(1988)のモデルに従ってタグ付けをした。これによって、今後のアメリカ司法英語とイギリス司法英語の通時的、共時的研究の基礎となる言語データがそろった。 その上で、Biber(1988)モデルし沿って100以上の語彙・文法項目について計量的分析を試みた。その結果、アメリカの司法英語は極めて規則的に過去200年余りにわたって変化してきていることが判明した。5つのdimensionの数値の歴史的な変化は以下のとおりである。 Dimension 1 -7.56→-13.02→-16.54 Dimension 2 -1.50→-2.10→-2.74 Dimension 3 9.52→8.54→5.45 Dimension 4 0.95-→-1.49→-1.98 Dimension 5 8.02→7.05→3.85 アメリカの司法英語は、 1.口語的な文体、瞬時に語彙文法形式を判断して発話するような文体から、時間をかけてより多くの情報を限られた言語内に詰め込むような文体、節中心から句中心の文体に変化している。 2.過去の出来事について語るナラティブな文体から、説明的で記述的な文体に変化している。 3.主として関係詞節を使った言語内での意味照応完結型文体から、言語外あるいは状況依存型の文体に変化している。 4.話者の判断を相手に伝えるより説得的な文体へと変化している。 5.受身系の文法形式が減少し、より具体的な表現何用の文体に変化している。 ということが統計的数値の上で明らかとなった。夏には北アリゾナ大学のBiber氏のもとを訪ね、この結果について意見交換をした。12月にはBiber氏を立教大学に迎えて、氏が提唱するコーパス言語学と英語教育との融合について講演会を開催した。
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