研究概要 |
研究期間1年目にあたる20年度は,教科書における動詞の取り扱いの概略を把握するため,Juffsの動詞の9分類(1.標準他動詞,2.目的語選択動詞,3.状態交替動詞,4.動作交替動詞,5.刺激心理動詞,6.経験心理動詞,7.名詞句/節動詞,8.非能格動詞,9.非対格動詞)に基づき,高等学校用検定教科書(Pro-vision他3冊)の動詞の頻度の分析を行い,国際的ロングセラーであるTESLテキストのInterchangeとの比較考察を行った。5.を除く8分類の動詞群において,Interchangeが検定教科書よりもType/Token Ratioが高く,ひとつの動詞に対して幅広い例文環境を提供していることがわかった。各動詞の出現頻度では,Interchangeでは,2. 6. 7. 8. 9.の5動詞群が,Nationの提案する語彙習得のための基準頻度を満たしているのに対し,検定教科書では唯一6.群だけが基準を満たしていることがわかった。動詞の分類による頻度の差異はカイ2乗検定で有意であることが示され,この差異に強く貢献しているのは,検定教科書が9.を高い頻度で出現させているということと,Interchangeが3.と5.を検定教科書よりも多く頻出させているという点にあることが明らかになった。なお,今後の研究精度を高める上で,新たに10種類20冊の教科書の内容を電子データ化し,タグ付けを行った。研究期間1年目の当該年度の研究結果の意義と重要性は,パイロット的な分析結果にもかかわらず,今後の研究への大きな示唆と可能性が含まれている点にある。検定教科書における動詞の例示環境の状態や動詞群による提示頻度のバランスの善し悪しは,今後研究の精度を増すことにより,より的確に示されることが期待できる。また,教科書作成者に対しても,従来の文法事項や提示順序を再考し,新しい研究結果を踏まえた動詞の提示や例示に含めることを提案することが可能になる。
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