研究概要 |
21年度の研究成果に基づき,当該年度は心理動詞の分析を深化させることを目標にした。教科書コーパスは「英語I・II」の40種類を用い約2倍に増やし,比較対象のコーパスには約24万語から成る児童文学書を加え,調査対象の心理動詞は40種類に増やした。調査の結果,教科書における心理動詞の多様性は,参照コーパスに遠く及ばないことが明らかになった。統語形式別の調査では,教科書の心理動詞の能動態の頻度が低かった。能動態が学習者の誤りを生じさせやすい点を考慮すると,インプットの充実と改善が求められる。なお,教科書における心理動詞の形容詞的現在分詞は,参照コーパスと同等の頻度で現れており,望ましい結果が得られた。学習者と母語話者コーパスの調査結果は,教科書の頻度調査結果に沿う展開となった。異なり語数の頻度においては,母語話者の頻度がより高く,学習者の心理動詞の使用の多様性は明らかに低かった。習熟度別に再分類して行った10000語あたりの延べ語数による比較では,初級者と中・上級者の延べ語数は同程度であるが、異なり語数に大きな隔たりがあった。特に,初級者においては多様性が貧弱であることがわかった。また,中・上級者を比較すると,使用頻度に関しては,ほとんど差がなかったが,文の詳細を確認すると,中級者では,日・英語両語の心理動詞の統語的差異が原因と思われる誤用が見られた反面,上級者における誤用はほとんど無かった。初級者では,一部の心理動詞の使用が突出し,中級者では,形容詞的過去分詞の頻度が高いことがわかった。中・上級学習者は,使用する心理動詞の多様性が増し,特に上級学習者では,形容詞的現在分詞の使用が増えることも明らかになった。本研究の意義は,(1)教科書における動詞の取り扱いの研究の必要性,(2)教科書を豊かな言語材料として改善する取り組み,の2点を教育的示唆として示すことのできる点である。
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