本研究は、香川県観音寺市大野原町に所在する巨鼇山地蔵院萩原寺所蔵の真言密教に関わる聖教類について悉皆調査を行い、この聖教を歴史・宗教・文化の資料として有効に活用する基盤を形成するのと同時に、その成果にもとづき中世の地方寺院における宗教活動の様相を明らかにすることを目的とするものである。本来、2008年度から2011年度までの4年間を研究期間とし、調査とそれにともなう撮影は概ね順調に進展したが、2011年1月、聖教目録の作成過程において、撮影済み史料を検討したところ、無年記の聖教の年代推定について、筆跡や料紙の用法などを手がかりとしてより精確に行える可能性が明らかになったため、研究費の繰越を申請し、本年度も追加調査を行うこととした。本年度における研究の概要は、以下の通りである。 ①萩原寺への出張調査:2012年10月および11月に調査を実施し、対象となる鎌倉~南北朝期の聖教について、原本による追加調査を行い、無年記の聖教の年代推定の精確さの向上をはかった。 ②撮影目録の公刊:東京大学史料編纂所萩原寺地蔵院聖教調査グループ編として、載録史料点数1752点におよぶ『萩原寺地蔵院聖教撮影目録』(全95頁)を刊行した。この目録は、函号・名称・形状・員数・本文奥書等・備考・撮影番号等の項目で構成しており、南北朝期以前のものをほぼ網羅している。撮影した写真画像と相俟って、同聖教を今後史料として活用する基礎となるものということができる。
|