中世東大寺の燈油田関連史料の全貌を解明する上で、中核となる東大寺図書館所蔵未成巻文書第1部第17(燈油田及大湯屋田)について、『大日本古文書家わけ第18東大寺文書之21』を刊行した。現状の第1部第17は、東大寺惣寺管理の印蔵にあった売券類、鎌倉から南北朝期の油倉燈油聖作成・受給のもの、南北朝期末期・室町前期の楞伽院受給のもの他が大きな固まりとしてあることが明瞭となった。 また同一時期のものでも油倉燈油聖系と惣寺年預五師系と異なる伝来関係のものが混在している。東大寺文書の利用に際しては、このような混在に留意する必要があることが改めて明確となった。 この間の成果についてWEBを利用して発信した。東京大学史料編纂所データベースのうちユニオンカタログデータベースに、新たに東大寺文書関連のインデックスデータを登録した。東大寺図書館所蔵東大寺文書(宝庫文書)、東京大学文学部所蔵、同法学部所蔵、筒井寛秀所蔵、水木家資料所蔵、根津美術館所蔵などである。また科研代表者のHP(備考URL)からは、東大寺年預五師文書勘渡帳、東大寺関連文献リスト、そして燈油田を含む、東大寺文書中の土地権利委譲に関わる文書を集成したリストなどを公開した。 調査としては、上記『大日本古文書』のための東大寺図書館での原本調査を行った。また新たに大和文華館所蔵の双柏文庫所蔵文書(中村直勝氏蒐集文書)の調査・撮影を行った。同文書には、東大寺文書が多数含まれている。 連携研究者である西尾知己(学術振興会特別研究員)は、中世後期東大寺史の解明をさらに進め、学位請求論文「中世後期顕密寺院の研究」によって、早稲田大学より博士(文学)を授与された。
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