地域社会が百姓や町人にとどまらず、多様な諸集団を内包し、複層的に構成されていたことに留意して、地域社会の構造的特質を明らかにするという研究目的を達成するために、前年度に引き続き、「簓」「笠之者」「谷川之者」「猿牽」など、地域社会において周縁的な位置づけにある諸集団に関する史料発掘と収集につとめた。その際、畿内・近国においで近年解明の進んでいる「夙」(宿)の研究成果に学びながら、これまで本研究で明らかにしてきた「簓」「笠之者」「猿牽」の集落を「宿」と位置づけることで、これらの諸集団が地域の寺社に奉仕する集団手あったこと、また中世から近世に移行する段階で、行政的に独立した村として扱われず、行政的には百姓の村に取り込まれてしまったために、地域社会において「差別」的な扱いを余儀なくされるに至ったことなど、新たな知見を得ることができた。その成果は、「信州下伊那における身分的周縁-飯田藩「牢守」・「猿牽」と諸集団との関係-」(塚田孝編『身分的周縁の比較史-法と社会の視点から-』清文堂、2010年5月刊行予定)としてまとめた。 他方、飯田城下における「谷川之者」の実態を明らかにし、藩による掌握過程と藩領域における「牢守」を頂点とする組織を解明するために、上飯田村の検地帳などの収集と分析を行なった。さらに、これらの諸集団と寺社との関係を明らかにするために、上川路村開善寺や大島山村瑠璃寺などの新たな史料収集を開始し、最終年度である2010年度につなげる準備を進めた。
|