初年度に引き続いて、興福寺関係史料のなかから商人・職人をピックアップする基本的な作業を行った。対象とした史料は、すでに活字となって刊行されているいくつかの日記類、文書集から、まだ焼き付け写真の形にしかなっていない未刊のものに及んだ。その作業と併行して、研究代表者および分担者が、それぞれの研究分担に即して、先行研究の批判的検討を進めた。 第二に、あらためて興福寺の寺院組織の研究に着手した。これは商人・職人の支配・統括のあり方が、予想以上に寺院組織と密着している側面があることが判明してきたことによる。従来ほとんど問題とされてこなかった「商人名主」などの解明を通じて、膨大な研究蓄積のある荘園関係を含めて、寺院の支配機構をあらたな視点から解明する可能性を模索している。 第三に、引き続き新史料の収集・「発掘」を行った。まず、その存在は知られていながら東大史料編纂所にもまだ架蔵されていないいくつかの史料を、マイクロフイルムの形で収集した。ついで、京都市の山田家所蔵福智院家文書中の冊子形態史料の紙背文書を「発掘」し、読解を進め、学界に提供するための準備を行った。ただし、紙背文書の極端に崩された文字の読解は容易ではなく、各自の読解・研究成果を持ち寄ったうえで、2010年3月に京都府立大学を会場とし、山田家より史料を借用して原本調査を全員で行った。その結果、新たな問題を発見することができ、あわせて一部の紙背文書については校注などの形で研究成果を付して近々学界に提供できる見通しが得られた。
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