前年度に引き続き興福寺関係史料のなかから、また今年度は春日社所蔵史料からも商人・職人をピックアップする作業を行った。すでに活字になっているいくつかの日記類、文書集はもちろん、まだ焼き付け写真の形にしかなっていないものも対象とした。あわせて研究代表者および分担者は、それぞれの研究分担に即して、先行研究の批判的検討を行った。 第二に、初年度の研究を通じて、商人・職人の支配・統括のありかたが予想以上に寺院組織と密着していることが判明したので、昨年度よりあらためて興福寺や門跡の組織の研究に着手した。従来ほとんど注目されてこなかった「商人名主」の追跡、諸御願の納所職、荘園の定使職、門跡の御童子職などと商人・職人の関係の解明などを行った。中世後期に荘園制がどのように再編されて維持されていたのかについて、一定のイメージを形成することができた。 第三に、引き続き新史料の収集・「発掘」を行った。その存在は知られていながらも東大史料編纂所に所蔵されていないいくつかの史料を、マイクロフィルムなどの形で収集した。ついで京都市山田家所蔵福智院家文書中の冊子形態史料の紙背文書を「発掘」し、読解を進め、学界に提供する準備を行った。蓄積してきた各自の読解・研究成果を京都府立大学に持ち寄り、2010年9月に山田家より文書を借用して最終点検として原本校正を行った。 2011年3月に末柄は春日社関係史料について、今後の研究基盤を形成するために調査を実施した。安田は9月の調査であらたに出てきた問題に関して、京都府立大学所蔵の写真帳に即して確認、調査を行った。近々、一部の紙背文書は、校注などの研究成果を付して学界に提供できる予定である。
|