本研究は、江戸の芸能市場に大きな役割を果たした門付け芸、寺社境内に神楽などを上演した神事舞大夫、小規模の芝居などに着目し、史料に即して江戸の門付け芸、寺社境内などの芸能の実態を把握し、その歴史的展開を分析することを目標としている。正確な分析によって、江戸の「芸能市場」の階層性も可能となると思われる。平成22年度の主な研究活動は以下の通りである。 1、 より国際的な観点から資料を収集、調査、分析するため、十一月に渡米し、二週間ほど滞在しながらアリゾナ州立大学付属図書館において芸能に関する最新の研究成果を調査し、数多くの研究書と学術論文を閲覧し、資料のコピーを行った。 2、 東京の図書館を中心に、関東地方の市町村史を中心に史料調査を行い、編集、年表の作成などを継続し、またその分析作業に着手した!も本年、佐藤かつら著『歌舞伎の幕末・明治:小芝居の時代』(ぺりかん社、2010年)が出版された。本研究のひとつの対象としてきた江戸の小芝居、宮地芝居の実態の詳細が明らかとなったため、本研究の主な対象のひとつであった江戸の小芝居・宮地芝居を少し修正し、芸能市場の実態を芝居に求めるよりは、社会の底辺に活躍した盲人と寺社境内に芸能を演じた神事舞大夫たちを重点的に扱うことにした。 3、 この方針にしたがい、本年は浅草寺の寺社境内の芸能(三社祭りに伴う「びんざさら」、湯立て神楽、雉舞など)に関する考察をまとめ英文の論文一編を学術雑誌において発表した。また女性盲人芸能者である「瞽女」に関するあらたに発見した資料を基に、芸能市場の階層的構造の分析を行い、和文の論文をまとめ、学術雑誌に発表した。 以上の活動に加え、津軽三味線の演奏者と芸能市場との関係について口頭発表を行い、瞽女に関してもいくつかの講演を行った。
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