2年目にあたる平成21年度には、7世紀における中国法典の継受と日本律令制の形成に関する論文1点と、儀礼に関わる器物受容に関する論文1点、学会報告1点の成果を得た。 『九州史学』所収の論文「これからの律令制研究」は、平成20年度の口頭報告を増補のうえ論文化したもので、唐律令の体系的継受は、8世紀初頭の大宝律令に始まり、7世紀以前の段階では、中国南北朝の影響を受けた朝鮮諸国からの国制継受の方がより重要かつ本質的であり、この点を踏まえ、律令制の形成史を時間的・空間的に再検討することで、従来の律令制研究が持つ「一国史」的な限界を乗り越えることを主張している。 また論文「儀礼空間としての国庁・郡庁」では、養老儀制令17条に規定される地方官衙での儀礼用の器物「五行器」の性格について、北宋天聖令による新知見も加えて検討し、7~8世紀の交における地方儀礼整備と律令制の関係を考察した。さらに家具道具室内史学会第1回大会シンポジウム「玉座」において、「律令制における座具使用の展開と玉座」と題する口頭発表を行い、正倉院御物の赤漆槻木胡床や、高松塚古墳壁画の男子群像中に見られる胡牀の検討を含めた東アジア古代における座具使用の史的展開と、律令制の施行、朝廷儀礼の整備との関連について考察した。 海外出張としては、12月に中国洛陽市周辺において、北魏から隋唐期の律令制関係遺跡の現地踏査や、後漢から北宋にかけての古墳壁画の実物調査・資料収集などを行った。 平成22年度には、中国法典の将来と日本律令制の形成に関する検討を更に進めるとともに、研究成果の一部を著書として公刊する準備を進める予定である。
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