本課題の最終年度にあたる平成22年度には、英語論文1点、学会動向1点、北宋天聖令に関する口頭報告1点のほか、本課題全体の総括として、単著書1点を公刊した。 『ACTA ASIATICA』No.99所収の英語論文「The Acceptance of Ritsuryo Codes and the Chinese System of Rites in Japan」では、7世紀までの律令制形成期の日本では、中国的な礼と法の二元構造が継受されず、その継受は8~9世紀に礼典や器物の受容と並行して本格化することを論じた。 また、北宋天聖令に関する研究会での報告「唐開元二十五年廐牧令の条文数および条文配列をめぐって一北宋天聖令による唐令復原のための予備的考察一」では、当該史料を用いて唐廐牧令の復原のための基礎作業を行い、7世紀日本における唐令継受のあり方についても考察した。 海外出張としては、9月に中国南京・揚州市周辺において、南北朝から宋代にかけての皇帝陵、都城、遣隋使・遣唐使関係の史跡の実地調査・資料収集を行った。 単著書『律令官制と礼秩序の研究』は、代表者の既往の研究に、本課題の研究成果を含む新稿を付し、全体を補訂・改稿のうえ公刊したものである。特に第2部第2章では、唐礼部式や刑部格の継受と大宝・養老令制との関係、第3章では、外来の器物である座具の継受と唐礼受容との関係、第4章では、儀犬と蓋という器物の継受について、唐代陵墓の壁画と高松塚古墳壁画の比較により検討を加えた。全体として、大宝・養老令制は、7世紀までの氏族制的な国制の総括であり、それが8~9世紀における礼制継受により変質・解体するとの見通しを示すことができた。
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