研究概要 |
本研究の目的は、2006年に国宝指定を受けた「尚家文書」(総数1,166点。那覇市博物館蔵)を史料学的に分析することを通して、近世琉球の国家と社会の特質の解明にある。 具体的には、(1)近世の琉球国家の特質に関して、主に対中国との冊封・朝貢関係の再検討を通して分析すること、(2)琉球社会の特質に関しては、主に近世琉球固有の身分制度(士族身分と百姓身分の二大区分制)等を新たな視点から分析すること、(3)「尚家文書」において修復の必要から未撮影であった文書の撮影が可能となったものがあり、それらをマイクロフィルム撮影によって収集することである。 今年度の実施計画と実施状況は次の通りである。「尚家文書」中において、琉球の外交と内政の両面を把握する上で重要な文書として、「僉議」(詮議とも呼称)がある。多くの僉議史料の中から、琉球の国家と社会に関係する史料の翻刻を行い、基礎的な分析を加える計画を立てた。具体的に1841年(道光21)「僉議」史料を翻刻し、分析を加えた。その僉議は、清国との貢期(朝貢の間隔)をめぐる政治折衝(=謝恩使節派遣の適否)に関連したものであり、琉球王府内部での審議形態を明らかにすることができる文書である。 新たに修復された9点の文書をマイクロフィルムによる撮影・収集を行った。具体的には、第59号「道光18年冠船御礼式日記」、第63号「道光14年冠船付廻文」、第64号「道光18年冠船付廻文」、第68号「冠船付三ヶ寺御参拜日記」、第74号「冠船之時見合可相成条々」、第463号「訴訟光緒2年」などである。新規に収集したこれらの文書は、対外関係(国家形態)と国内支配(社会形態)を分析する上で不可欠であり、本研究にとって有意義な史料であることが判明した。
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