近世身分論研究は、近世の社会的結合を、村・町というもっとも基礎的なレベルの結合と、商人仲間をはじめとする諸社会的結合を媒介するものにわけ、身分論という視角から、近世社会の二つのレベルの諸社会的結合を全体として把握する社会構造の把握理論として重要な位置を占めてきた。これにたいして、本研究の作業を通して明らかになったのは、身分論研究において必ずしも積極的に論じられることのなかった、基礎的レベルでの結合と二次的結合の関係性の意義とその重要性である。二次的結合としての商人仲間の形成や、その基礎にある個々の商人の所有(それは株という物件化現象によっても確認される)は、一見基礎的な共同体と関わりなく形成・成長していくようにみえる。しかし、本研究による検討の結果、それらの商人の所有(営業対象や販売のテリトリーなどの所有)が、基礎的共同体である町と相補的・共生的関係を持つ場合があることを指摘し、身分論研究における町共同体か、諸身分集団かという、両者を対比的にとらえる理解への批判的見地を見いだすことが出来た。これは、社会的結合を形成しない女性の分業形態と男性のそれを比較する作業を通じて得た結論である。また、近代移行期の仲間結合の解体と再編過程においても、両者の関係性を意識しつつ分析することが必要であり、該期の都市行政もそのような相補的共生的関係をふまえておこなわれることを明らかにした。
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