主として元ホステスの女性Aさんとの交流をより深める事で、売春に対する彼女の認識と、彼女のライフ・ヒストリー、彼女の母方の家族の歴史、同様に米兵相手のホステスだったAさんの母といとこの人生について多面的な事実を明らかにすることができた。具体的には、Aさんは自分の意思で米兵とホテルへ行って稼ぐことを必ずしも自分の誇りを傷つける行為とは考えていなかったこと、Aさんの母親といとこは、その夫と父親がそれぞれ長男だったがためにその横暴な仕打ちの下で不幸になってしまったのだというAさんの認識、Aさんはアメリカ統治をアメリカ民主主義の到来と捉え、3回にわたる結婚生活でも自分自身の意思と独立をつらぬいたことに誇りを持っていることなどを明らかにできた。 こうしたことは、戦後沖縄におけるホステスの売春認識や、戦後沖縄における長男重視の傾向や家族規範にかかわる沖縄女性史の一端をあらわすものであり、1人の女性の体験にとどまらない、重要な研究史上の意味を持つ。また、米兵向けバーに次いで基地の街コザ市の典型的な商売であった美容室や洋裁店などにおける女性労働について調査した。その結果、美容室と洋裁店は戦後の沖縄の都市で女性が自活していくときの典型的な商売であり、かつ、バーの繁昌に密接に依存していることがわかった。ホステスたちが多額の金を洋裁店や美容室で消費すること、しかもホステスたちの多くが前借金によってバーの主に縛られていて自由がないので、代金踏み倒しの心配が少なかったことなどがわかり、基地の街における女性労働の具体的な様相の一端が明らかになってきたという点で重要な成果であった。
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