今年度は、平成20・21年度の成果をもとに、19世紀前半にオランダ船が日本に持ち渡った誂物(=注文品)に焦点を絞り、日蘭両側貿易史料と現物とを照合しながら解明を進めた。はじめに、長崎歴史文化博物館所蔵の「諸書留」3冊とオランダ側史料とを照合する形で調査・分析し、誂物として輸入された品の一部が長崎会所で取引にかけられていたことを解明した。次に、その成果をもとに、昨年度報告した「近世後期におけるオランダ船の御用御誂物輸入について」で得た成果をより具体的に継続・発展するため、将軍の注文品である御用御誂物の内、特に染織品に焦点を絞り、実物の裂を貼り込んでいる「御用御誂切本」(鶴見大学図書館所蔵)をオランダ側史料と突き合わせることにより、その詳細な取引を明らかにし、御用御誂物における染織輸入の実態と意味を解明すべく「御用御誂物としての染織輸入-「御用御誂切本」の紹介を兼ねて-」(『鶴見大学紀要』第48号第4部)を報告した。その結果、数多くのことが判明したが、その中の一つを記せば、本方荷物の取引から御用御誂物にされた品物(染織品)については、本来の本方取引時と御用御誂時では、オランダ側の日本への売値はほぼ同じであるが、長崎会所の五ヶ所商人等への売値は、御用御誂物が本方荷物よりも2倍近くの価格がついており、同じ品物でも御用御誂物としての商品価値が本方荷物よりも高く、当時いかに御用御誂名目に価値が置かれていたかが判明した。また、本稿で考察対象とした「御用御誂切本」は文政7年(1824)から天保7年(1836)までの御用御誂物としての反物の内、長崎会所で取引にかけられる反物の裂を貼り込んだ「切本」であり、御用御誂物として日本側に入った反物の取引を記し、また、一部ではあるが現物の裂を確認することができる実際的な史料として非常に価値の高いものであることを明らかにした。
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