平成21年度の研究実績は次のA~Cの3点に要約できる。 A神祇令散齋条の注釈:20年度以来継続している散齋条の注釈であるが、本年は特に散齋・致齋の対象となる祭祀についての分析を集中して行った。その中で、祈年祭・月次祭、そして鎮魂祭に関して新たな知見を得たので、その報告を行っておきたい。現在、祈年祭と月次祭との関係に関して、祈年祭が月次祭に御歳神への祭祀を新たに加えることで成立した新たな祭であるとする考え方が一定の影響力をもって存在している。今回の注釈では、天皇の親祭-神との共食-がないことをもって、原初的形態を持たない祭りであり、それをもつ月次祭が祈年祭に先行する祭りであるとする説に対し、神話の時空間の中では無意味な議論あることを明らかにし、月次祭が祈年祭に先行することはありえないことを論じた。これは近日中に論文として学界に問う予定である。鎮魂祭に関しては、祭祀に陶器が使用されているとする説を批判し、陶器が用いられていないことを考証し、その神話的意味を明らかにした。 B良助天台座主の著書の復刻:平成20年度に論文として学界に問うた三一権実論争の根本史料であるにも関わらず今まで活字化されることのなかった良助の「天台法輪摧破法相外道銘」と「学義禅問」の復刻を進行させた。 C市制度の再検討:罪人の決罰の場である市制度に対する全面的見直しを行い、関市令関条によって東西市を統制的な市場とする見方が当該条を誤読したに過ぎないことを明らかにした。これは22年度中に論文化する予定である。
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